I Puritani [音楽]

このブログでは、主に古楽やヒストリカル・ダンスに就いて書いていますけど、それ以外にも大好きな分野があります。それは、19世紀前半に書かれた所謂<Belcanto Opera>です。Callas が生前述べていた通り、実際<Belcanto Opera>と言うOpera は存在しません。19世紀前半に書かれたOpera は、Cavatina・Cabaletta形式で書かれたOpera と言って良いでしょう。作品は、その形式で書かれたAria・Duetto が各所に散りばめられ、それらは、様々な装飾技巧で彩られます。物語は、Recitativo で進められますが、そのRecitativo もまた魅力的です。19世紀前半のOpera でRecitativo が上手く語られなければ、その作品の魅力の大半は損なわれます。

最近良く聴く19世紀前半のOpera は、V.Bellini が1935年にParis で発表した<I Puritani di Scozia>です。物語は、17世紀前半のイングランド西南端にあるプリマス近郊で起こった王党派と清教徒の争いを背景に、繰り広げられる王党派の騎士Arturo と清教徒の総司令官の娘Elvira の緊張感を孕んだ恋物語です。<I Puritani>と言えば、ヒロイン役Elvira が歌う<Son vergin vezzosa>や<Qui la voce~Vien,diletto,in ciel la luna>がクローズアップされていますが、Elvira 以外の主要登場人物にも、良い音楽が与えられていますし、1幕のアンサンブル・フィナーレは、Verdi 中期に匹敵するぐらいのエネルギッシュな音楽を聴く事が出来ます。まだ未聴の方には、是非一度、聴いて頂きたい作品です。この作品の物語の詳細や音楽に就いては、この作品の録音に付帯してあるブックレットをお読み下さい。

先月、昨年Bologna のIl Teatro Comunale で上演された<I Puritani>を収録したDVDを購入しました。

I Puritani.jpg

お目当ては、最近表現力に深みを増し、レパートリーを広げつつあるJ.D.Florez でしたが、聴き進める内にこの上演で使われているエディションに、興味が移りました。1幕5場で展開されるArturo・Riccardo・Enrichetta のTerzettoは、通常版では略ArturoとRiccardoのDuetto ですが、この版では、この3人によるれっきとしたTerzettoを聴く事が出来ます。このTerzettoは、各人の感情を吐露するもので、充実した音楽が与えられ、非常に聴き応えがあります。このお蔭で、Enrichetta の役の比重が、通常版よりも、重くなっていると言う事が解ります。資料によれば、Belliniが初演直後にカットしたナンバーだそうです。また、3幕3場のフィナーレでElvira がRondo<Ah,sento o mio bell'angelo>を歌う事が、最近では慣習的になっていますが、このRondo が、Arturo とElvira のDuettoになっています。このRondo も、初原稿では、ArturoとElvira のDuetto なのだそうです。他にも、様々な削除された部分が再現されているらしく、このクリティカル・エディションは、恐らくパリ初演版に最も近いエディションなのでしょう。このエディションを使用したBologna に於ける公演は、パリ初演版に最も近い演奏と考えられます。エディションも興味深かったですが、勿論、演奏も見事なもので、指揮者のMariotti の采配の許、Florezを筆頭に、出演者全員が、好唱・好演を披露してくれました。正しく<素晴らしい!>の一言でした。





19世紀前半に初演されて、現在までその生命を保ち続けている作品であっても、その多くは、時と共に、ナンバーの削除・原調からの移調・不明の作曲者による曲の挿入・歌手のヴァリアンテ等が施されて、原型から掛け離れた作品になってしまいました。その原型が大きく改変されてしまった作品の代表は、Donizetti のMaria Stuarda でしょう。

このように、原型を取り戻すクリティカルエディションの作業は、困難も伴いますが、作品に付着した塵芥を洗い落とし、作品を瑞々しい姿に再生させる貴重な作業だと思います。これからも、この様な作業によって多くの19世紀前半の作品が、再生する事を望みます。

arata
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glennmie

イタリア・オペラは自分にとっては全く未知の世界なのですが、とても興味深く記事を拝見しました。
オペラに限らす、エディションを吟味することはとても大切なことですね。
作曲家が生存してチェックすることができた初版、初演の研究はこれからますます活発になるでしょうね。
楽しみです。
by glennmie (2010-12-18 09:43) 

arata

ぼんぼちぼちぼち様
御訪問・nice 有難うございます。

アヨアン・イゴカー様
御訪問・nice 有難うございます。

glennmie 様
御訪問・nice・コメント有難うございます。
そうですね。仰る通り、どの楽器の作品でも、エディションの吟味は必要ですね。作曲者自身が改訂したとしても、初版を知る事は大切だと思います。初版と改訂版を比べてみて、作曲家がなぜ、改訂したかを知る事は、演奏する際、どちらの版を選ぶにせよ、とても重要な事と思えるのです。

arata
by arata (2010-12-18 11:15) 

nyankome

>作品に付着した塵芥を洗い落とし、作品を瑞々しい姿に再生させる貴重な作業
まるで絵画の様ですね。
作曲された当時の姿を知りたいという気持ちは、単なる好奇心ではなく、作曲者の意図を知る上で大切なことですね。
by nyankome (2010-12-19 01:05) 

Cecilia

I Puritani、観たことがないのでじっくり観てみたいです。
Belliniは初めての声楽発表会で歌ったこともあって(「夢遊病の女」のアリアです。)思い入れがあります。

by Cecilia (2010-12-20 03:38) 

arata

nyankome 様
御訪問・nice ・コメント有難うございます。
仰る通りです。演奏者の自由も大切ですが、演奏家は、作曲家の最初の意図を知る姿勢を持つべきですね。演奏家は、作曲家の最大の奉仕者なのですから。

Cecila 様
御訪問・nice ・コメント有難うございます。
Belliniは、その資質から、抒情性ばかり強調されますが、オペラ全体を聴くと、やはり、Sicilia出身者の熱さ・強さを感じます。彼の集大成である<I Puritani>を、是非お聴き下さい。

arata
by arata (2010-12-20 07:11) 

FAL

arata様、
初めて投稿をさせていただきます。
年の瀬も迫ったこの時期、
本ブログで「清教徒」を見聴きできてほんとうに嬉しかったです。

私はベッリーニの歌劇で「ノルマ」と、この「清教徒」が一番好きです。
なかでも本日ご紹介くださった「清教徒」1幕3場のこのアリア
「私は愛らしい乙女」が大好きで、この曲を聴きたいがために
この一年間、いろんな吹き込み~CDを集めてきました。

マリア・カラスに始まり、ルチア・アリベルティ、マリエラ・デヴィーア、
エディータ・グルベローヴァ、そしてスミ・ジョーなどです。

やはり全体としてはカラス盤が佳く、またソプラノ歌声・唱法ではアリベルティが好きですが、けれども途中から入る男女ヴォーカルの掛け合い(合いの手?唱法)と弦楽伴奏の巧みさ、見事さはこのマチャイヅェ&フローレスの動画版が最も素晴らしいと思いました。

素敵な演唱動画を掲載くださり、大変にありがとうございました。

私は元々(音楽一般を鑑賞するのは好きでしたが)意識してクラシックを聴き始めたのはここ数年のことであり、トスティの歌曲を教育TVで聴いたのがきっかけでした。

そのトスティからベル・カント等の言葉を知り、そこからベッリーニの歌曲集、オペラ作品~ドニゼッティの歌劇等へとすすんでゆき、以後は猛烈にそれら関係作品のCDや本などを集めてきました。
(「ベッリーニ~その生涯」という分厚い本も図書館から借りて読みました)

今回、arata様が指摘くださった「清教徒」の上演歌唱内容が時代により変遷していることや、また以前にとりあげられた「ランメルモールのルチア」記事も大変に興味深く読ませていただきました。

私はこの貴ブログを当初から愛読しておりますが、クラシック音楽の専門的な知識がまだよく分からないので掲載記事へ対する賛美共感の思いもなかなか今までは「投稿」することもできませんでしたが、本日は特に私の好きな作品に直截関係する嬉しい内容だったのでお礼のコメントをさせていただきたく、投稿したわけです。

ところでarata様はドニゼッティのオペラ「シャモニーのリンダ」~
「この心の光り」というアリアを聴かれたことはございますでしょうか。
私はこのオペラ、この曲も「清教徒」と並べて大好きです。
(「清教徒」ほど技巧的ではないですが、とても美しい素敵な調べです。)

最後になりますが、arata様の常に真摯で端正なこのブログ記事、文章内容を読むと何か私はベッリーニの音楽...、すなわち自らのもつ全霊と全知をもってあのような清冽な作品をつくりあげた作家であるベッリーニとその音楽を、このブログ内容に重ねあわせることがあります。

以上、私のこの一年の音楽鑑賞をふりかえっての長い投稿になり、
大変に失礼をいたしました。
...まことに「年やここに暮れなんとす、想えば感慨多し」です。

それでは来る新年もどうぞよろしくお願い申しあげます。
(長々と大変に失礼をいたしたことをお許しください)

by FAL (2010-12-30 03:15) 

arata

FAL 様
僕のブログの拙記事を、過分に評価して下さり、恐縮しております。僕は、古楽と並んでRossini とその時代の作曲家の作品を、非常に愛好しています。話し出すとキリがありません。
<Linda di Chamounix>は、僕も好きな作品の一つです。緻密に書かれた良い作品と思いますが、抒情的な作品なので、Donizetti のドラマティックな作品の陰に隠れてしまいがちなのが、残念ですね。
Rossini とその時代の作曲家の作品を愛好される方は少ないので、ネット上であっても、貴方のような方と巡り合えた事を、幸いに思います。今後も宜しくお願いします。
arata
by arata (2010-12-30 07:57) 

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